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映画と好きな本の感想など

『月の光 現代中国SFアンソロジー』感想 前編

 今回はこの作品。今回は、と書きつつブログで書くのは初めてな気がしますが気にしない。

 

 

 

ケン・リュウという作家が編集した中国SFアンソロジーには『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』が以前に刊行されているが、今作は前回のアンソロジーと同じかそれ以上に面白かったので、記憶が薄れないうちに感想をふわ~っと書いておこうと思う。表題と作者名と訳者名は以下のハヤカワのnoteより。

www.hayakawabooks.com

 

「おやすみなさい、メランコリー」夏笳(シアジア)/中原尚哉訳

アラン・チューリングの部分とリンディの部分に分かれた話。チューリングの話の方は創作部分が多く含まれているらしいが私には分からない、というかそのまま受け入れてしまった。創作と実話を交えたあたりにもこの話の肝があるのだと思う。

私はSFが好きだと言いつつ、まあビギナーなりに好きなだけなのでよく分からない(と逃げてしまう)が、ロボットのような人間、人間のようなロボットを描くことで人間とは何なのかと迫るあたりSFらしいSFだなぁと思った。

アランとクリストファーの対話は図らずともカウンセリング手法が使われているようになっていて、そのあたりがリンディのパートと対応しているのだろう。カウンセリングなどの対人援助職は人工知能に取って代わられることはないと思っていたが、そうとも限らないのかもしれない。

 

「晋陽の雪」張冉(ジャン・ラン)/中原尚哉訳

中国では流行りらしい「穿越」小説と伝統的SFの境界線上にあるというこの話。タイムリープしてなんとか戻ろうという話だったが、作中に出てくるユーモラスな部分と終わり方のビターな感じが良かった。レイバンのサングラスは反則……。

出てくるガジェットがアイデアに溢れていて、それでいてストーリーの盛り上げ方も良かった。

 

「壊れた星」糖匪(タンフェイ)/大谷真弓訳

思春期の青い痛々しさとホラーチックなSFが重なり合った作品で、前者はともかく、後者のホラーな感じはやや苦手意識があって震えてしまった。そううまくは行かないけれども……と胃のあたりがキュッとなってしまった。


潜水艇」韓松(ハン・ソン)/中原尚哉訳

作者はカフカの影響を受けたと書いてあったが、なるほど不条理な感じはした。これもSFなんだろうか?この作品が現代中国で意味するところを議論することが目的なのかもしれないか私には難しかった。奇想的なところはすごく好きだった。


サリンジャー朝鮮人」韓松(ハン・ソン)/中原尚哉訳

これもまたハン・ソンによる作品。サリンジャーってそういう末路を辿ったのか?と一瞬思ってしまったがそんなことはない。他の作品でも思ったが、中国人にとっての朝鮮人の存在は、日本人にとっての朝鮮人とはかなり違うのだと感じる。当たり前だが気づかなかった。どのように違うのかは、作品の力で抽象化あるいは具体化されて議論にぶち挙げられているということなのだろう。

 

 

 

前半はとりあえずここまで。中編に続く(かな?いつの間にかこの記事が非公開になってたらすみません)。