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映画と好きな本の感想など

『月の光 現代中国SFアンソロジー』感想 後編

なんだかんだでゆるっと書いてきた感想文の後編。

 

 

「宇宙の果てのレストラン――臘八粥」吴霜(アンナ・ウー)/大谷真弓訳

 この短編自体がアンナ・ウーによる短編シリーズのうちの第一作。訪れた客がコックに話をすることで食事が提供されるというレストランの話。このような形式の短編シリーズやレストランの客の話の内容は馴染み深くて読みやすかった。

 

始皇帝の休日」馬伯庸(マー・ボーヨン)/中原尚哉訳

 ゲーマーである始皇帝(?)が休日にやるゲームを国中の才あふれる者たちから募ったらどうなるかという話。ゲームの知識がないとこの話の面白さが半減してしまうのではないだろうか。私もオチが分からなくてググってWikipediaを読んでしまった。


「鏡」顧適(グー・シー)/大谷真弓訳

 この話は小説という媒体をうまく使っていた。私が今までに読んだ数少ないうちの小説から似ている形式の小説を選び出すとネタバレになってしまうので伏せる。種明かしの暗さがなかなか好きだった。


「ブレインボックス」王侃瑜(レジーナ・カンユー・ワン)/大谷真弓訳

 事故死した女性が脳に埋め込んでいた記憶装置を、彼女の交際相手の男が再生して覗き見る話。死の数分前の記憶が装置には記録されているので、実質遺言のようなものなのだが、このような形の信用できない語り手をうまく使っているのは面白いと思った。読み手によってはどちらの意味にも取れるラストの文章が良い。というのも、女性の記憶をそのまま受け入れるか、女性の真の望みが「私を嫌って過去のものにしてほしい」というものだったと受け取るかで意味合いが変わってくるためである(ネタバレ)。私としては女性の愛ゆえの思考が男性の未来を照らすことになったと思いたい。

 

「開光」陳楸帆(チェン・チウファン)/中原尚哉訳

『荒潮』の作者による 仏教テクノロジーSFにワクワクしてしまった。中国では仏教徒は多いのだろうか?と思って今調べたら中国の人々は民間信仰が多いらしい。どちらにせよ人民に現状よりかなり仏教が浸透している設定の話だった。途中で章の番号がおかしいと思ったら二進数だった。トンチキ感とズッシリ感がどちらも楽しめてお得だった。

 


「未来病史」陳楸帆(チェン・チウファン)/中原尚哉訳

本アンソロジーで1,2を争うほど好きな作品が最後に載っていた。もう一つ好きな『金色昔日』とは形式も毛色も違うが甲乙つけがたいほどどちらも好き。

スタンリーと名乗る者が未来から預言をしてきて、未来では9つの事象が生じているという話だった。作者のチェン・チウファンは別名スタンリー・チェンであるので、順当に考えて現代社会への警鐘を鳴らしている話だろう。各々の病気や現象は残酷だが興味をそそられてしまうものばかりで、それぞれの事象で長編が書けるのではないかと思ってしまった。ラストにある通り、事象を9つ並べることが大事なのかもしれないが……。

 

まとめ

というわけで、項目ごとに感想の厚さが変わってしまいましたが、感想を書きやすいものとそうではないものがあるせいだと思います。このアンソロジーはどれもとても面白かったです。

小説のあとはエッセイが三編収められており、中でもフェイダオによるものは思わず胸が熱くなる内容だったのでエッセイも必読です。

次に本の感想を書くことがあれば、それは面白いアンソロジーか短編集に激突したときか、もしくは本にかこつけて何かを主張したいときだと思います。

ブクログとわもの本棚 (とわも) - ブクログ)もやってます。よろしければどうぞ。

それでは!