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映画と好きな本の感想など

『月の光 現代中国SFアンソロジー』感想 中編

前編に引き続き、『月の光 現代中国SFアンソロジー』の感想をふわっと書いていこうと思う。

 

 

 

さかさまの空」/程婧波(チョン・ジンボー)/中原尚哉訳

美しい描写で、これが幻想文学というものかと思った。美しいだけでなく残酷さやSF的な仕掛けもあって全体が調和していた。幻想文学的な作品は前作の『折りたたみ北京 現代中国アンソロジー』にも含まれていたがそれとはまた趣も違って(違うのは当たり前だが……)良かった。


「金色昔日」宝樹(バオシュー)/中原尚哉訳

今アンソロジーで1,2を争うほど好きな作品。解説で「中国的な作品」と書かれていたが、タイムトラベル小説の一形態である「穿越」が一大ジャンルになっているからこそ時間遡行せず歴史は遡行するこの小説に際立つものがあるし、中国の歴史や文化に詳しければ詳しいほど面白みが増すあたりがそうなのだと思う。

歴史の順番を逆にして細かく入れ替えても、物事は悪い方から良い方へ向かうのかというあたりが読みながら考えさせられることのひとつだったが、一組の男女の歴史に引き裂かれ時間を超えてのラストシーンには涙が出てしまった。途中に主人公の男は別の女性と結婚することもあるがその女性とのシーンも胸を打つものがあった。

ちなみに引用されたプーシキンの詩もロマンチックでとても良かった。いやいいんだよな歴史に揉まれる男女の機微が……。


「正月列車」郝景芳(ハオ・ジンファン)/大谷真弓訳

前回の『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』の表題作でとても面白かった『折りたたみ北京』の作者のハオ・ジンファンによる作品。

こういうふうにグラフが出てくるとトンチキ感が増して心がグッと掴まれてしまうが、この作品はタイトルもオチもめでたい雰囲気をまとっていて読んでいてホッとした。

この作品は、ファッション誌に委嘱された作品という立ち位置こそが重要なのかもしれない。


「ほら吹きロボット」飛氘(フェイダオ)/中原尚哉訳

これもまたハン・ソンとは違った奇想的な作品で、ファンタジー感があった。解説ではカルヴィーノ風の寓話と書かれているがカルヴィーノとは違った味もあると思った。


「月の光」劉慈欣(リウ・ツーシン)/大森望

あの『三体』の作者、リウ・ツーシンによる作品(『三体』は積んでますすみません)。最後まで読むと笑えるような気分になるが、結局はどうあがいても……というビターなオチで人間社会の抱える問題をストレートに書いていると思った。作品のSFとしての構成はシンプルというか古典的で、なるほど2009年の作品か、ともなった。

 

中編はとりあえずここまで。残りは後編に続くかもしれないし続かないかもしれない。