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映画と好きな本の感想など

『リアルファイティング「はじめの一歩」The Glorious Stage!!』@品川ステラボール を観てきました

一歩の舞台を観てきました。例によって私と「はじめの一歩」という作品との距離感ですが、2000年に始まったTVアニメの1期をすごく楽しんだ記憶があり、そこから原作を単行本である程度まで読んでいたのが、昔の記憶として残っているという感じになります。要はほぼまっさらな状態で今回の舞台を観に行った形です。なんなら直前にWikipediaのはじめの一歩の項目でどんな対戦があったかを確認したくらいです。好きなのは一歩と宮田くんで、その関係でしょうか。

そのくらいの距離感で舞台を見に出かけたのは、何はともあれ作・演出がアニメで一歩の声を担当された喜安浩平さんだったからです。この方なら「一歩」のことにも舞台のことにも詳しいし間違いはないだろうと、圧倒的な信頼がありました。結果としてこの信頼は揺るぎないものとなりました。

 

今回は再びやってきた品川ステラボール。正方形のステージが客席に張り出しており、それをA〜Eブロックに分けられた客席が取り囲んでいました。ボクシングのリングを見ているみたいで良いですね。ステラボールは客席が平らなので、最後列は椅子にクッションが置いてあって配慮はされていましたが、見にくいだろうなと思いました。最後列にはちょっとだけ空席もあり。私の座った席は真ん中のCブロックの真ん中あたりで、正面でした。ステージを見上げすぎることもなくちょうどよかったです。

 

 

さて本編ですが、OPでゾロゾロ出てくるボクサーたちの腹筋がすごい!!!!!!!!まあ多少は体にメイクも施しているのかなとも思いますが、それにしてもすごい。OPでは曲に合わせてボクサー役の方々総出でシャドーのように体を動かしていて、とても見栄えが良かったです。

喜安さんは2.5次元の舞台を作ってきたわけではないですし、御本人も自らの芯や考えてきたものをそのまま出して歌や踊りは無いとおっしゃっていましたし、私は2.5次元の舞台しか見たことがないわけですが、このOPの感じはすごく2.5次元っぽかったです。これはOPだけでなく本編でも随所で感じることになりましたが。二次元の原作のものを舞台にしようと志向していると、結果的に似たようなあたりに着地するのかなと思いました。

ただ、個人的な偏見かもしれませんが、一歩のお母さんや伊達さんの独白のシーンの雰囲気は小劇場感がありました。本当に小劇場の芝居を見ている人だったらこんなことは思わないかもしれません……。

あとから思い返せば、パペットを使った「試合のはしょりシーン」や客降りした「合宿シーン」の挿入の仕方は喜安さんの引き出しの中から出てきた演出なんだろうなと思います。それでもこんなことを書いておきながら何なんですが、らしさや○○っぽさで演出を単純に片付けてはいけない気がします。

 

本編には本当に試合シーンが多かったです。目の前で演者さんたちがその身ひとつでアクションを演じ、汗が飛び散り、迫力と緊迫感に押しつぶされそうで、思わず手を固く握ってしまいました。嘘の付けないその芝居に役と役の本気のぶつかり合いが見え、ボクシングの刹那性を再現するためにキャスト一丸になって舞台を作り上げていました。

この刹那性と再現性について、喜安さんはパンフレットでこれらはアンビバレントなものだとおっしゃっており、たいへん感銘を受けたので再三この語を使ってしまっています。

私は舞台もその場限りその日限りの刹那性があると思っていたのですが、ボクシングは一試合に人生をかけており、その刹那性は舞台の刹那性とは違うものであり、舞台はむしろ再現性があり全日全公演一定以上のクオリティの芝居を再現しないといけないという、まあ舞台ファンや舞台に関わる人にとっては当たり前のことなのかもしれませんが、そういう理念に感銘を受けてしまったのでした。そして「一歩」におけるボクシングを、本物のボクシングの刹那性を意識して捉えている喜安さんにますます信頼感が高まりました。

 

幕之内一歩は本当にそのまま幕之内一歩がそこに居るという感じでした。小さくて頼りなかった一歩がとんでもないものを秘めている、ゴリゴリのインファイトをするハードパンチャーな意外性があるあたりもやっぱり「一歩」の魅力なんだなあと思います。

宮田くんは演者さんが「一歩」のことも今回の舞台まで読んだことがなく、フッ……と不敵な笑みを浮かべる感じだったのですが、熱さが試合で引きずり出されていて良かったです。そして声がいい。The美声。いつかこの方が舞台で歌っているところを見てみたいと思わされました。

 

今回の舞台で、ライバル関係の良さ、少年漫画としてのボクシングの良さなど色々思い出して、自分の「スキ」の地層が、掘り出されたような、切り出されたようなそんな気持ちになりました。ライバルって何のためにいるんだろう……?とも考えてしまいました。

素敵なお芝居をありがとうございました。デンプシーロールの煙を浴びたのもいい思い出です。